- 古森真麻
世界で起きている「いま」

世界報道写真展について
世界報道写真展は、日本国内をはじめとした、ヨーロッパやアジア各国など約100会場をまわり年間約400万人を動員する世界最大級の写真展です。この写真展は、オランダのアムステルダムに本部を置く世界報道写真財団が毎年開催する世界報道写真コンテストで入賞した写真作品を展示しています。この世界報道写真コンテストは、今回で第62回を迎えました。
今年は129の国と地域から4,738人のプロカメラマンが参加し、78,801点の応募の中にはそれぞれ「現代社会の問題」「一般ニュース」「長期取材」「自然」「環境」「スポーツ」「スポットニュース」「ポートレート」の8部門があり、25ヵ国43人の受賞者が選ばれました。これらの写真作品は、私たちの世界について正確、公正であるか、そして説得力のある洞察があるかどうかの観点から審査されます。
写真展には日々流れていくニュースの中で埋もれてしまいがちな、世界で起きている「いま」に焦点を当てた作品が並びました。
世界報道写真展のはじまり
はじまりは1955年、オランダの写真家グループによってアムステルダム・オランダに本部を置く世界報道写真財団を発足したことによります。そして自分たちの作品を世界中の人々に知ってもらうことを目的として財団により翌年からドキュメンタリー・報道写真の展覧会が行われるようになりました。
展覧会は後の「世界報道写真展」となり、年間約100会場で開かれ、総計400万人が来場する世界規模の写真展へと発展しました。
作品紹介
(写真説明は展示パネルより引用)
世界報道写真大賞
撮影者: ジョン・ムーア ゲッティイメージズ
写真:「メキシコとアメリカの国境で、母親の取り調べ中に泣き叫ぶホンジュラスの少女」

写真は母親のサンドラ・サンチェスが車に手をついて身体検査を受けている下で、泣いている娘のヤネラの様子を捉えている。
メキシコからリオ・グランデ川を渡ってきた移民の家族らは、米国テキサス州マッカレンで国境監視員に拘束された。母親のサンドラ・サンチェスは、亡命のためアメリカに到着するまで一か月にわたり娘のヤネラとともに中央アメリカおよびメキシコを旅してきたと話した。捕された親の多くは子どもと切り離され、殆どの場合異なる収容施設に入れられ、約2000人以上が親と引き離された。サンドラと娘のヤネラは結果的に引き離されなかったが、この写真が公開された直後、米国の国民の間で物議を醸し出した。
多くの親子を引き離したトランプ政権の「ゼロ・トレランス(不寛容)」移民政策に批判が集まり、それにより写真が撮られた10日足らず後の2018年6月20日、ドナルド・トランプ大統領は政策を覆すことになった。
(補足)
これに対しムーアは「フォトジャーナリズムの役割は、私たちの個人的な意見や感情を見る人に押しつけるのではなく、その瞬間を正確にとらえて伝えることだ」と政府への直接的な批判を避けた一方で、「写真に力があり、政策についての議論が始まるなら、フォトジャーナリストとして喜ばしいことだ」と語りました。
世界報道写真候補作
撮影者: カタリナ・マーティンチコ / フランスおよびスペインパノス
写真:「コロンビア革命軍(FARC)による出産禁止後に妊娠」

「2016年にコロンビア政府と反政府ゲリラ組織FARCとの間で和平合意が成立して以来、元女性兵士の間ではベビーブームが起きている」ヨルラディスはコロンビア革命軍(FARC)に加わっていた間の5回に及ぶ堕胎を経て、6回目の妊娠を果たした。5回目の妊娠の時は、ゆるめの衣服を着て妊娠6カ月になるまで指揮官に知られないようにしていたという。
環境の部 単写真一位受賞
撮影者:ゲッティイメージズ ブレント・スタートン/南アフリカ共和国
写真: 「アカシンガー 勇気あるものたち」

反密猟武装部隊「アカシンガ」の一員である、ペトロネア・チグムブラ(30)。ジンバブエのフンドゥドゥ野生動物公園での偽装・隠蔽対策訓練に参加している様子。アカシンガ(勇気ある者たちの意味)は、新しい自然保護モデルとして設置された警備部隊で、その目的は元コミュニティと環境の長期的利益のために、地元住民と敵対するのではなく協力することにあり、全メンバーは女性で構成されている。
世界報道写真ストーリー大賞
スポットニュースの部
撮影者:ピーター・テン・ホーベン / オランダ、スウェーデン、アジャンス・ビュ、シビリアン・アクト
写真:「移民キャラバン」

2018年10月30日、メキシコ南部のタパナテペク郊外で、移民を乗せるために停車したトラックに駆け寄る人々。
数千という中米の難民がアメリカ国境を目指すこのキャラバンは、2018年10月12日にホンジュラスのサン・ペドロ・スーラを出発し、話が広まるにつれ、2300人の子どもを含む7,000人と、最近の記憶では最大の人数となった。キャラバンはおよそ30キロ歩くという過酷なものだった
左 : 2018年10月30日、メキシコ南部のタパナテペク郊外で、移民を乗せるために停車したトラックに駆け寄る人々
右上:2018年10月29日、タパナテペク郊外で乗車させてくれたトラックに乗る移民
右下:2018年10月30日、メキシコ・フチタンで一日歩き続けたのち眠り込む父親と息子

多くの写真報道家たちは世界に変革を起こすようなストーリーを伝えたいと思っています。
世界報道写真展を通して、今なお世界の様々な地域で紛争が続き暴力が絶えないという現状を、彼らは力強いメッセージとストーリーを通して私たちに訴えています。スマートフォンの普及やSNSの発展とともに誰もが世界に向けて情報発信ができる時代になりました。
変化していく時代の中で表面的な報道だけに惑わされていないか、本当に知るべき報道を改めて考える必要があると思います。そして変わり続ける世界の今を知ること、そして人々に伝えていくことの必要性を感じます。

APUでの開催について
2000年秋にAPUの開学記念として開催され、2003年以降は毎年開催、2018年まで延べ36,000名余りの来場者数を得ています。APUで開催する意義として、九州唯一の開催で九州各地より多くの来場者があるため、学内外への教育的な貢献やAPUの広報においても繋げていくことが可能であると考えています。